ん~ムリかな。じゃー先ずはマンボウでも見にいこっ!」
そんな樹の心の中も知らずにつかさは前を歩いていく。
「ちょ、ちょっと待て。手こぎで追いつける訳ないだろ!」
必死に追いつこうとこいでみるが、人も多い分動きづらい。
「あ、ごめんごめん」
彼女は笑顔で戻ってきて
「私がいなくなって寂しかった?」
「ば、何いってんだ」
冗談じゃない分、先が思いやられる。
離れた距離はたったの数メートル。
それでもつかさは、小走りで、その距離を縮めた。
「ほら、いっくよー」
車椅子の取っ手を握ると、ようやくデートが始まった。
恋人じゃない、ふたりのデート。
「あはは、ホントに縦長なんだぁー。おもしろーい」
完全に主導権はつかさにある。それは間違いないだろう。
そして見事に尻に敷かれているよ、樹。
「あぁ~なんか間抜けっぽい面だよな」
とかマンボウを見ながら樹は言った。
樹も同じ様な顔してマンボウを眺めていたので「樹もマンボウだね」とかいったら彼はちょっと拗ねるだろうな。とか考えたので、違う事を言葉にした。
「あのネットって何かな?」
私の言うネットとは、水槽の内部にあって、まるでマンボウを包むように設置されているものの事である。
「ああ、たしかマンボウが壁に当たって怪我しないように……だっけかな?」
たぶんそうだったと思う。と樹は教えてくれた。
「ふぅーん……よし、次いこ」
「ハイよ」
「さぁー張り切っていこう!」
そんな感じで樹をお供に色々な所を廻った。
私の車椅子ドライブテクニックで効率よく館内を動き、
「つぎはペンギンだー」
と時間に連れて枷の外れてきた樹と、やや暴走気味になりながら、深海・淡水コーナーを見て廻り、
「………………………………………………………つ、つかれた……」
息を乱しながら休憩場で休んだ。
私は移動に関しては殆ど決定権のない樹を連れ、次から次へとありとあらゆるコーナーを制覇していった。