「…君の花言葉、覚えてる?」
涙眼のイリスが訊いてくる。
「……信じる者の幸福、だろ」
「そうだね。じゃ、神様からひとつお知らせがあります」
萎れたアヤメを挟んでとじる。
「あと三十秒くらいかな。三十秒してもあそこにいるなら、あの子は今日死ぬよ」
「っな!!」
「もうすぐトラックがくる筈だよ。飲酒運転のね」
「う、嘘だ!」
「信じる信じない(・・・・・・・)はあなた次第だけど、後悔だけはしない方がいいよ。そうすれば、運命は幾らでも変るし、変えられる」
「悔いを残すな、喜びをのこせ」
それってどういう意味だ。
後悔。
樹にとっての後悔は――――。
つかさが死ぬって言うのか!?
「迷っている暇はないよ?」
冗談じゃない。
そんな事を聞いて、黙ってるわけに良くか。
僕はもう、ヒーローじゃないかもしれない。
つかさに必要とされてないかもしれない。
それでも。
もう頭で考えるより、行動に出ていた。
その後ろで、
「さぁ、頑張って」
と、イリスがポツリと、呟いた。
その言葉を背に、樹は声を上げていた。
「つかさーーー!!逃げろーーー!!」
でもそれは、つかさには届かない。
それを瞬時に悟った樹は車椅子を走らせる。
しかし、思ったよりも雪は深く車椅子の車輪を掴む。
「くそっ!」
つかさがボールを拾った場所は公園の出入り口の近くだった。
その先から、スピードを緩めることなく突っ込んでくるトラックが一台見えた。
つかさはちょうど背を向けているため、トラックには気付いていない。