考えることをも放棄した。

「じゃー、なんで走るの始めたか覚えてる?」

つかさが訊いた。

ふぅー、と樹は息を吐く。

「わかんない。でもなんかあったんだよな。じゃなきゃ僕がここまで出来るわけがないし、やろうとも思わなかったと思うんだ」

いいながら樹は空を見上げた。

灰色の空。

白か黒かの判断つかない曖昧な空。

まるで自分ようだ。

「わたしはね、知ってるよ」

「え?」

「どうして走るの始めたのか。その理由も」

つかさはポケットから一つの小さな塊を取り出した。

カラン、カン。

 

それは錆びついた小さな鈴。

どこか見覚えのある小さな鈴。

「覚えてないかな。これね、樹が小学生のときにわたしにくれたんだよ。その頃いつもいじめられてたわたしに、『これがあれば安心だよ。音がしたらすぐに駆けつけてあげる』って、そしたらホントに次の日から来てくれたんだよ?……他の誰でもない樹が、すぐに来てくれたんだよ?」

つかさの声は途中から震えていた。

頭が、冷たい。

「道で転んだ時だって……一人で寂しかった時だって、鳴らせば………樹は来てくれた。ドラマに出てくるような、主人公」

 

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