樹はどうやら熱中しているようだ。
夢中になると彼は止まらない。
こうしてみると本当に子供みたいに無邪気に笑う。
こんな顔は久しぶりに見た気がする。
あの日以来、樹とは毎日のように喋ってはいたけれど、彼が心から笑ったのは今日ぐらいだ。
少しは元気になっただろうか。
だとしたら、今日は大成功――。
と、ポッケトの中の物を握り締める。
目の前の、すぐ横にいる、少年を見て。
いつも、今まで、ためらっていた言葉。
頭の中では言えるのに、言葉にするのが難しい。
でも、今日は。
今日こそは、伝えるんだ。
だから、ここからが本番だ。
そのための、デートなのだから。
前のページ 次のページ