信じるものには幸福を
小さい頃、言葉にした約束がある。それはとても純粋なモノだった。
それがなんだったのか、今の彼にはわかるだろうか。
――リリン。
微かに鳴った鈴の音色。
その音で、ふと本から顔をあげる。
相部屋のおじいさんのお見舞いに、小学生の女の子が来ていた。
いつも決まって四時に来る、おじいさん自慢の孫だった。
「こんにちは、いつきさん」
「ああ、こんにちは。楓ちゃん、今日も一人で来たの?」
「はい。って、また子ども扱いするんですから!やめてくださいよ~。楓はもう子どもじゃないんです!」
そのムリに背伸びするところが子供だとはまだわからないだろうなぁ。
そう考えると、なんだか自然と笑みが出てしまう。
「ああ!何ですかその反応!バツとしてまた宿題手伝ってもらいますから」
「たまには自分でやろうよ」
「甘えられるうちは甘えとけ。それがおじいちゃんの訓えです」
胸をはって言う楓ちゃん。でもおじいさんが伝えたかったのは、こういう意味じゃないんじゃないのかな?
「今日は宿題がないから、また今度にうけてもらいます。具体的には冬休みの宿題を」
そう一度樹に挨拶すると、おじいさんのベッドに戻っていった。
カーテン越しに聞こえたのは、いつもの学校の話だった。今日はどんなことを習ったとか、友だちと何で遊んだとか。他愛もない、でも心の和むそんな会話。
そしてまた、確認する。
「あぁ、もうそんな時間か」
病室の窓から外を眺める。
季節は冬。
少しばかり開いた窓から風が吹く。
一言でいって、寒い。吐く息が白くうつる。
換気の為に開ける、なんて理由がなければすぐにでも閉めたいと思う。
窓から吹く風が、本のページをパラパラと捲る。
空は夕暮れ、綺麗なオレンジ色に染まっていた。
また一日が終わる。
そして一日がまた始まる。
どれだけ繰り返したのだろか。
白いシーツに白い毛布。
ちいさなボックスにパイプ椅子。
時々におう消毒臭。
慣れた。もう慣れたよ。
いつもと感じられるくらいに。